エクステンションバーの相性についての検証。その2
相性の参考に,Snap-onのFX3を差してみました。検証に使った3/8Sqのラチェットハンドルはこれ。
ラチェットハンドルは他にも少しあるのだが,メーカーが重複するので今回はこれだけで検証しました。

これは2002年にアップしたちょっと古い工具の比較です。現行の工具とは違うと思われますので,あくまで参考でお願いします。
要は,各社とも公差が違うんですよということを言いたかったのです。見てのとおり,同じスナップオンでも物によっては寸法が違うのです。

左側から順に,(説明の下が装着結果です。)
 
 Williams SUPER-PALMSTER(82歯のラチェット:アメリカ)
  ピッタリ装着。
 
 FACOM J161E (フランス)
  ピッタリ装着。
 
 Snap-on FK731(1992年製:アメリカ)
  ピッタリ装着。
 
 MAC RA38(ラチェットアダプター:アメリカ)
  ピッタリ装着。
 
 Snap-on F723(プッシュリリースの1987年製:アメリカ)
  少し横振れあり。純正なのに…
 
 PROTO 5252(1983年頃購入したプッシュリリース:アメリカ)
  ほぼピッタリ。しかし,プッシュリリースボタンを押すとガタガタに…!
 
 ALLEN 11900(プッシュリリース:アメリカ)
  だいぶ横に振れる。最悪の相性。
 
 NKC PNL-9.5 (ギアレス:国産)
  ほんの少しだけ横振れする。

 Beta 910/55(イタリア)
  横振れあり。奥に届いていない感じだ。
 
 HAZET 8816-P(ドイツ)
  少し横振れあり。F723並。
 
 S・K 43875(FACOMの同型はS・Kの製品です:アメリカ)
  ピッタリ装着。

こうして,装着した結果を見ると,FX3は殆どの物にフィットします。
しかし,年代が違うとはいえ,同じSnap-on製品なのにF723に合わない理由は何なのだろうか?
あと,プッシュリリースタイプのハンドルに装着した場合,リリースボタンを押して,ボールの押す力を抜くと,装着感がまったく変わる事にも驚きました…




ボールの大きさに注目!



Snap-onの比較。
FK731(上側)に比べ,F723(下側)のボールは極端に小さい。
プッシュリリースのシャフトが貫通しているので,ボールが大きいと
強度が取れないのかもしれない。



系列メーカーの比較。
FACOM(上)とS・K(下)。S・Kはボールがだいぶ大きい。後にファコムは
171シリーズというプッシュリリースハンドルを発売したが(残念ながら未だ
1/2sqだけの発売)左記のF723と同じ理由で,この時点からそれを踏まえ
て設計しているのかも。発売されればJ171という名称になるはずだが。
注:S・Kは2005年5月にFACOMとの提携が無くなり単独メーカーに
なったが,会社経営が破綻し,現在では電気関係の工具メーカーで
あるIDEALの傘下に収まっています。



 相性の悪い2メーカー。Beta(上),Allen(下) 
Betaは差し込みが短く,Allenは差し込みが長くボールが小さい。


その相性の悪いAllenにSnap-onのFM10を挿してみた。
案の定?ガタガタだが,何故かこの面だけピッタリとフィットした。

溝付きタイプと1穴タイプについて
左の写真は1980年代のSnap-on:FM10(溝付きタイプ)とPROTO:5210(1穴タイプ)共に10mmのソケットである。

1穴タイプは穴以外の面には何も溝を切っていない。この溝を切っていない面に凸側のボールの部分が来るように差し込むと,ボールが嵌り込む部分が存在しないから相性問題は殆ど発生しないのだが,この差し込み方では,ロッキングエクステンションとかを使っても引っかからないので引っ張ると抜けてしまうという欠点がある。まぁ,本来ソケットツール類は押しつけながら使うのが基本なので,殆ど問題は無いのだが。

AllenのハンドルとSnap-onのソケットで「1面だけフィットする」というのは,この面だけSq穴の中の溝が浅いか,ボールの入る場所に溝がこないのだと思います。
そう考えるとSnap-onは他メーカーに比べ特別に加工精度が高い訳ではなさそうだ。
この写真を見ると,Snap-onのSq差し込み側がいかに太いか判ると思う。


まとめ:その2    

エクステンションバーを含めて,ソケットツール類の相性は,結果的にどことどこの相性が悪いというのは手持ちの工具では年代とかが違うため結果を絞りきれなかったが,相性の原因を突き止める事は出来た。よく考えると単純な事だが,原因はズバリ,凸側はボールスプリングの強さ及び大きさと位置。そして,凹側は溝の位置と深さである。これの位置が凸凹共ピッタリ一致した時が最良の相性となる。Sq部の寸法で凸と凹の大きさの差は,各メーカー共サイズにバラツキがあったので,どうやら相性とは関係が無いみたいだ。しかし,上にも書いたが,プッシュリリースタイプのハンドルでボールのテンションを抜くと,今までキッチリ嵌っていた物も,いきなりグラグラになる。そう考えると,相性もボールのスプリングを強くすれば誤魔化す事が出来るようで,比較的キッチリ嵌っているSnap-onをはじめとするアメリカ系のメーカーも,実はボールのテンションが強いだけだったのです。

その事から考えても,凹側の許容の広いSnap-onは精度が高いのではなく,単に凹側の溝の位置と大きさが平均的であるだけだという事が分かる。
だから他のメーカーの物を挿してもキッチリ入るのだ。また,イレギュラーな使い方だが,HAZETでさえエクステンションバーを連結すると,多少振れる。
そして,HAZETの場合は,ハンドルとエクステンションバーを純正同志で組み合わせても多少振れるのだ。しかし,ここは精度が低いメーカーではない。

だから,低価格品は別として,同一メーカーの組み合わせでも振れる事は決して精度が悪いのではなく,各メーカーにおけるクリアランスの考え方だと思われます。クリアランスがゼロでは絶対に嵌りません。この事は箱に同じサイズの箱を入れる事を想像すると分かりやすいと思います。入れる箱のサイズは外箱よりどこまで小さくすれば入り,そして,すんなりと入れやすいのか?この寸法のノウハウが各メーカー共違うのです。

Snap-onは「キッチリ嵌るのが良し。」とする考え方。だからソケットは堅くて抜けにくい。他のメーカーの場合,「ラチェットハンドル類は必ず押さえつけながら使い,基本的に本締め用ではない。」という考え方。1穴タイプのメーカーはまさにそれで,穴の場所にボールが入るとガタガタ。しかし,多少の振れはあるが,穴のない面にボールを当てると「どこのメーカーに対しても殆どピッタリ嵌る」という許容の広さがある。だから,普段は穴の無い面に挿して使い,抜けては困る時だけ穴に嵌めて使う事を想定しているのかも。そうでなければボールと穴のサイズをいくら何でもメーカーが間違える訳がない。他のメーカーが早々と溝付きに変わったのに対して,MACやCRAFTSMANが1980年代後半まで1穴タイプを変えなかったのは,そういう理由からかもしれません。



オマケ どこのメーカーのソケットが一番肉薄なのか?3/8Sqの10mmソケットで検証してみました。



横から見たところ

 ボルト差込側から見たところ
左から肉薄の順です。( )内はカタログデーターの外径寸法ですが,実寸のSnap-onはHAZETより太く,BetaもPROTOより太い。
左から,BELZER#7400DM(14.1mm),HAZET#880(14.4mm),BONNEY#MT10(絶版品。カタログデータ無し),Snap-on#FM10(14.3mm)
PROTO#5210M(14.9mm),Beta#910A(14.6mm),FACOM#J.10H(14.7mm)となっている。
外径が細いほど肉薄でBELZERがダントツで薄い。
これも,寸法が昔と同じかどうかもわからないし,現在入手困難なのが残念。
最新のカタログデーターと実際の順番が違うのは,生産年度で寸法が違っているからと思われる。特にアメリカのメーカーはちょくちょく
仕様変更をする。Snap-onなどは保証に対する対応で強度を確保するため?外径が年々太くなっているようです。
参考に他のメーカーカタログを見てみると,Stahlwilleが14.3mm,KTCとNEPROSは14mm???
しかし,KTCは小数点以下を省略している?ようなので実際はKo-ken(14.5mm)あたりと同じかもしれない。
Sq側から見たところ 
さらに,参考にSq側を比べると,一番細いのはPROTO。以下Beta,BELZER,HAZET,Snap-on,BONNEY,FACOMの順になる。
横から見た写真を見るとPROTOは上下の太さの差があまりないのがおわかりいただけると思う。
今まで,奥まったボルトを回すのに何度もBELZERやPROTOに助けられました。
Snap-onでは太くて回せない場所が意外に多いのです。そして,ファコムもボルトに優しいのはいいのだが…。



肉厚はこんなにも違う。



ボルト差し込み側。左BELZER,右FACOM。


Sq側。左PROTO,右FACOM。


蛇足だが,BONNEYはトルクレンチメーカーであるUTICAのかつての1ブランドで,10年ほどくらい前までUTICA-BONNEYとして売られていました。
それ以前はKELSEY-HAYES というメーカーの工具部門で,何故かSnap-onより先に?LOC-RITEという面接触ドライブを採用している。
俺の手持ちの1960年代のレンチでは,Snap-onが点接触にもかかわらず,KELSEY-HAYESは面接触で,しかもPAT.Dと刻印されている。
いったいどちらが先なのだろうか?俺は,軍用はKELSEY-HAYESが先で,民生用はSnap-onが先だと推測しているのだが。
それとも面接触でもSnap-onとはパテント内容が違うのだろうか…?行きつけの信和商事(H14.11廃業)では分からなかった。
人づてに大谷商店で訊いてもらったら,「昔の事でようワカラン。共同開発では?」との事だった。
この件はまた別のページに書いてみたいと思います。


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