整備工具,はじめの一歩(その3) (バイク版:初めて買う工具,定番質問編) 2ちゃんねるバイク板工具スレには定番の質問レスが何度も?出てきて,その度に荒れたりする事があります。 という事で,初心者にありがちな?お決まりの質問回答を一気に?説明しましょう。これを読めば疑問は氷解かも? |
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メトリンチってどうよ? 深夜のテレビ通販でおなじみのミリもインチも回せる 工具ですが,整備用では使えない工具だと思う。一般 家庭にメトリックとインチを使った製品が混在しているア メリカだからこそ便利なのであって,インチを使った製品 の殆ど無い日本ではインチを回せる機能は余計な物で ある。工具の場合「何にでも使えそうな物は,結局何に 対しても使いにくい。」これが結論。アジャスタブルレンチ などもこれに近い感覚か。 ちなみに,生産は台湾のCENDAI INDUSTRIALで, 品質は一般的な台湾クオリティ。しかし,最近これの質 問が出ないのは深夜のテレビ通販で扱わなくなったか らなのか?それとも,使えない工具?として完全にスレ 住人に認識されたからなのか??? (画像にカーソルを当てると説明が出ます) |
マスターグリップってどうよ? これもヤフオクの常連商品。メーカーはアメリカでも製品 の大半は中国製だ。これを販売しているALLTRADEは 主に3つのハンドツールブランドを持っており,ALLTRADEが 一般向け,MASTERGRIPは家庭向け(後述のコストコ専用 ブランド)で,POWERBUILTが自動車業界向けである。 ちなみに,友人の持つマスターグリップのメッキ欠けやレ ンチのナメ具合を見ると,残念ながらこれの耐久性は劣 ると言わざるおえない。オイル交換と増し締め程度しか整 備的な事をしない人が,「金を掛けずに一気に安く工具を 揃えたい」と言う場合を除き,これより良い工具を買った 方がいいし,このセットに入っているインチ工具を必要と する初心者は殆どいないだろう。最初から乗る物がハーレー やアメ車なら必要かもしれないが。 蛇足だが,何故ヤフオクに大量に出品されるかというと, 日本国内には6店舗あるアメリカの会員制スーパー COSTCOで売っているからで,安い物なので大量買いして 転売しているという訳だ。ちなみに,最新の176PCセットは コストコでは常時\16,000程度で売られている。 付け加えると,コストコはWHOLESALEと名乗るとおり卸売 り業者なので,ここで買った物を転売して儲ける事は別に 後ろめたい事ではない。 (画像にカーソルを当てると説明が出ます) |
安いトルクレンチってどうよ? 工具掲示板の傾向として,トルクレンチについて質問する 人は殆どが初心者に近い人だから,自分の手の感覚だ けで締めるのはイマイチ不安で,どれくらいの力で締め たらいいか解らない…。だから「トルクレンチを買おう!」 って事になるのだが,トルクレンチはどこの物も高い。 そんな訳で,「初めて買うのだが何がお勧め?」とか「1 万円以下の安いトルクレンチってどう?」と質問が出る。 で,安いトルクレンチですが,別に問題は無いです。経 験から言うと単に耐久性に不安がある(劣る)だけ。もう 10年以上前の話だが,設備関係職場で悪条件で酷使 ?していたトルクレンチが同条件で使っていた東日の物 より安物の方が早くヘタる傾向が見られた。 サンメカレベルの通常使用でこのようになるかは不明だ が,プリセット型で,当初カチッといっていた物が徐々に ゴクッという鈍い感じになり,最終的にはゴグゴッというイ ヤな手応えになった事を覚えている。その時点で設定 が狂っていたかは未確認ではあるが。 また,安いトルクレンチは試験成績表が付いておらずイ マイチ不安なので,値が合っているかを高価な?トルク レンチと比べるなりして一度は確かめた方が良い。店頭 で,持ち込んだトルクレンチを測定させてくれる工具店も ある。 仮に,設定値が狂っていても各設定値が均等にズレて いればズレた分だけ補正して使えば使う事が出来る。 各設定値毎にバラついている場合は,残念だが使わな い方がいいだろう。 (画像にカーソルを当てると説明が出ます) |
永久保証ってどうよ? Snap-onの保証を含め,これもまた工具スレでは定番の話 題。上が永久保証で下が生涯保証の表示だ。これは両方共 KOBALTブランドの工具保証だが,上が旧型JH.Williams 製で,下が現行DANAHER製の物。同じブランドでも製造元 が変われば保証も変わる。 で,保証の話だが,名の知れたメーカーならば殆どのメ ーカーが保証されており,代理店保証もあるから心配は 要らない。ただし,交換してくれるのは通常使用で壊れ た場合やメーカー側に落ち度があった場合だけ。 「Snap-onは壊れたら交換してくれる」というのはフランチ ャイザーであるバンセールス店主が客を離さないよう に頑張っているからであって,それはメーカーの保証で はない。Snap-onのメーカー保証は,新品を買った人 だけが受けられる一代限りの生涯無期限保証である。 一代限りゆえ,平行輸入の場合は平行業者が保証対象 なので,そこから買ったユーザーは保証対象外だ。しかし ながら持ち主が一代目か二代目かを証明するすべもなく 現状では曖昧な状態。ありがちであるが,平行物の保証 をバンセールスに求めるのはモラル以前の問題だろう。 (画像にカーソルを当てると説明が出ます) |
本締め出来るラチェットってどうよ? ギアレンチ系の工具を例に出すと,従来の平ラチェットレ ンチは軽く締める仮締め専用で,本締めは出来ない工具 だった。ところが,最近の72歯ギアレンチ系工具は本締 めが可能となっている。しかし,この「本締め」という言葉 に惑わされる初心者も多い。 本締め可能な工具とは,そのサイズのボルトナットを 標準締め付けトルクで締める事が出来る工具で,決 してオーバートルクに耐えるという意味ではない。リンク 先にもあるが,M8のボルトで12.5Nm。M8は頭が13mm だから,13mmの本締め出来るギアレンチは12.5Nmに耐 える事が出来れば良い事になる。 まぁ,実際には高張力ボルトの標準締め付けトルクであ る29.5Nm以上は耐える訳だが,メーカーの保証は標準 トルク迄で,それ以上はオーバートルク扱いされても文 句は言えない。さらに付け加えるならば,締めより緩め の方が瞬間的に大きな力が必要なので,工具は締め る時よりも緩める時に壊す事の方が多い。 (画像にカーソルを当てると工具毎に説明が出ます) |
産業用(工業用)工具ってどうよ? 特定の工具メーカーに対して「あのメーカーは肉厚があり すぎてダメだな」とか,「このメーカーは仕上げが悪くてチ ョット…」とか言う人がいるが,多くの場合はメーカーや グレードの選定を間違えている。明記されていなくても 工具には家庭用,産業用,自動車用,航空用などの区 分けがある。また,同じメーカーの中でもグレードが分かれ, それぞれの用途向けに設計されているものなのだ。 だから,その辺を意識して工具を選ぶようにしたい。 その,工具設計者の意図に反して用途を間違えて使うと 耐久性が足りなかったり,肉厚過ぎて細かい所に入らなか ったり,すぐにメッキが剥がれたりして不満が出る事も多い。 例えば,早回し用に意図された短めのレンチに対して, 「何でこのレンチはハンドルが短くて力が掛けにくいんだ!」 などと文句を言う事のないように気を付けたいものだ。 「使いにくい工具だな」とか「何でこんなに作りが悪いんだ?」 と思ったら,冷静に?この工具はどんなユーザー向けに売ら れているのだろうか?と考えてみた方が良い。前者は産業用 で無骨な作りなのかもしれないし,後者は家庭用でコストダウン した工具かもしれない。そう考えると納得出来るのではと思う。 付け加えると,手の大きさなどが合わなくて使いにくいのは また別問題なので,その場合はピッタリの物を探すしかない。 (画像にカーソルを当てるとメーカー毎に説明が出ます) |
蛇足だが,ギアレンチと呼べるのはOEMを含めて台湾の LEA WAY製だけ。INFARのギアテックなど,類似品でも 機構が違う物は厳密に言うとギアレンチと呼ぶ事は出来ない。 しかし,機構は違えど,どちらも台湾のBobby Hu氏のパテント なのだ。同氏は最近の工具パテントを実に沢山持っており, プロクソンやシグネットでお馴染みのマイクロラチェットや KABOの捻ったコンビレンチなども同氏のパテントだ。 ちなみに,歯の形状はこんな感じ。 ギアレンチ ギアテック なお,ギアレンチの類似パテントは実に沢山あって,外観は 似てても各社それぞれのパテントで製作されている。外観的に はギアレンチ,ギアテック,KABOなど横にマイナスネジがある製品 (これもBobby Hu氏のパテント)の3種類しかないような感じ だが,それ以外の機構による製品も意外と多いので訳知り顔 に語ると恥をかく?かもしれない。 また,最近のギアレンチは単なる工具名称ではなく「ギア レンチ」ブランドということで,ドライバーやレンチなど一般的な 工具にも「GEAR WRENCH」の刻印があるので,さらに混乱 するようになってしまった。 参考リンク Bobby Hu氏が創設した工具設計とデザインの会社 HI-FIVE PRODUCTS DEVELOPING CO ここの製品はReverse Gearという名称で販売されている。 スエカゲの一部製品や与板利器の輸入品はこの製品だ。 リバースギアーの歯の形状(破損品から取出した物:参考) さらに蛇足だが,アメリカ製の平ラチェットレンチは Snap-onを始め,殆どのメーカーがKASTARのOEMだが, そのKASTARも最近は台湾のギアテックなどを扱っている。 平ラチェットは業界的には終わっている工具?なのかも。 画像にカーソルを当てると説明が出ます。 また,クリックするとメーカーにリンクします。 |
日本の産業(工業)用工具メーカー (例としてレンチ類のメーカーを独断で選んでみました。) 三木ネツレン(NETUREN),東邦工機(HIT), スーパーツール(SUPER),トップ工業(TOP), 新日本ツール(ASAHI),ダイヤ精工(TOUGUH) 水戸工機(MITOLOY),スエカゲツール(S.E..K) 相伍工業(AIGO) 水戸工機はヤマハの特殊工具も作っているので少しだけ? 自動車用の傾向か。トップ工業はEUメーカー的?な工具が あり,(薄口スパナや72歯のラチェットハンドルなど)自動車用 で使える工具も多い。ちなみに,ダイヤ精工はレンチ類の 販売を終了し,OEM専門メーカーになってしまいました。もし, 工具店でTOUGUHブランドの工具を見かけたらそれは売れ 残りの品です。 前田金属工業(TONE)は微妙なところ?で最近では 自動車用工具としての趣が強い?傾向だ。スエカゲ製 の中でもプロオートは自動車用として販売されている。 京都機械工具(KTC)や山下工研(Ko-ken)は産業用 もあるが,自動車用工具メーカーと言っていいだろう。 産業用や自動車用などの「○○用」というのは, その用途限定という事ではなく,○○用迄耐える 工具という意味です。だから,家庭用は自動車用 には耐えないし,自動車用は航空用には耐えない という事になります。例外もあるかもしれないが。 リンクはすべて別窓で開きますので,開けすぎに 注意。PCの動きが悪くなります。 |
これは初心者が揃えるものではないですが…。 (画像にカーソルを当てると説明が出ます。) 安い(小さい)コンプレッサーってどうよ? 選定について定番質問も多いのでついでに書いておきます。 初心者が初めて買おうとするコンプレッサーは3万円以下で 1馬力(0.75KW),吐出量80L/min,圧力0.7Mpa,タンク容量 25L程度の物と思われる。果たしてこれは使える物なのか? 一般的に使うであろう機器側の必要なスペックは最低圧力が エアツール:0.6MPa,塗装:0.3MPa程度。機器の空気使用量は インパクトレンチ:350L/min,スプレーガン:150L/min〜 230L/min程度だ。ちなみに,参考にしたインパクトレンチは 空研のKW14-HP(1/2Sq)で,スプレーガンはKINKIの重力式 KL63Aと吸上式KL63SSでノズルサイズ1.5mmの物。 これを見ると上記のコンプレッサーでは一見使えなさそうだが, 吐出されたエアーを直接使う訳ではないし,インパクトレンチな ら数秒の使用なのでのでこれでも大丈夫。しかし,エアラチェッ トのような機器を使う場合はタンクが小さいと連続使用が出来 ず,エアが貯まるまで休みながら使う事を強いられる。 また,その場合でもサブタンク付ければ平気と思いがちだが, タンクは大きくなっても空気使用量が多ければすぐ使い切っ てしまうし,再度空気を貯めるためには吐出量の小さいコンプレ ッサーでは時間がかかり,結局は一時凌ぎの方法でしかない。 とにかく,スプレーガン,エアリューター,エアラチェット,サンドブ ラスト等の連続使用する機器を快適に使おうと思ったらタンク 容量とコンプレッサーの吐出量は大きいほど良い。選定の基 準は馬力ではなく,あくまで吐出量を重視。馬力はモータ ーの大きさであって,吐出量とは必ずしも連動していない。 だから,限られた予算の中では最大の吐出量の物を買おう。 吐出量が大きければサブタンクの増設も有効になる。 ちなみに,国産のプロ向けコンプレッサーは上記のスペックでも 15万円はするが,ホームセンター物は3万円以下だ。この違い は何かというと,生産国と耐久性の違い。前者は国産で後者 は台湾や中国製だ。安いゆえ後者はタンクの材質も薄いし,シ リンダーやピストン部の耐久性も劣る。しかし,これはサンメカ レベルの使用では全く問題無いと思う。プロの使うコンプレッサ ーは連日1日中回しっ放しの状態に耐えなければならないが, サンメカの場合,まずそこまで使う人はいないからである。 参考リンク 技術講座(アネスト岩田) レギュレーター&エアフィルターと手元フィルターの取付例 (左右とも画像にカーソルを当てると説明が出ます。) |
各用途向け工具の特徴 家庭用工具(HOME USE TOOLS) 価格重視。安価で耐久性考慮せず。台湾や中国製。 産業用工具(INDUSTRIAL TOOLS) 価格はそこそこ。仕上げは雑だが耐久性重視。殆ど国産。 自動車用工具(AUTOMOTIVE TOOLS) やや高価。比較的繊細な作り。耐久性考慮。国産や輸入品。 航空用工具(AEROSPACE TOOLS) 高価。航空や軍用の規格品。メッキは強い。欧米製。 日本のメーカーの場合,産業用と自動車用は重複の傾向で, 航空用として売っている日本や台湾の工具は殆ど無い。他にも マリン用,防爆用,高圧電気用といった特殊用工具もある。 外国の産業用工具メーカー (あくまで一例ですが,独断で選んでみました。) メーカーグループ内には必ず産業用工具ブランドが存在する。 これらのメーカーは輸入品で高価だからといって仕上げが良 い訳ではないので,過剰な?期待をしてはいけない。 Snap-on傘下メーカーではJ.H.Williams STANLEY傘下メーカーではPROTO, DANAHER傘下メーカーではAllen,ARMSTRONG (かつてのARMSTRONGは設備業界向けのメーカー) その他では,S・K(USA),GEDORE(ドイツ),PASTORINO (イタリア)などがある。蛇足だが,S・Kは独立メーカーになった ので現在は不明だが,提携時,FACOMブランドの航空用工 具はS・K製だった。なお,現在のFACOMはSTANLEYの傘下メーカーになっている。 ちなみに外国の場合,航空用から産業用まで広いラインナ ップで販売しているメーカーが多く,安い産業用工具は PROXXONを始め台湾製のOEM品である場合が多い。 |
オイルタイプかオイルレスか? 「オイル式は圧縮空気の中にオイルミストが含まれるので塗 装には向かない。」と言う人もいるが,経験上から言うとそん な事はないです。確かに空気中の濃度を測定器を使って測 定すればオイル分が検出されるのだろうが,塗装に使ってい て全くと言っていいほど問題はありませんでした。 ただし,それはフィルターを使っているからで,フィルターを通 せば殆どのオイルミストや大半の水分が除去出来ます。コン プレッサーには圧力調整のレギュレーターが付いている事は 多いが,フィルターは付いていないから,それを追加すれば オイルタイプでも全く問題が無い。スプレーガンなどには手元 にも小型フィルターを付ければなおベターである。 それならばオイルレスはフィルターを要らないのか?というと そんなことはなくて,オイルミストは無くても水分については オイル式と何ら変わりません。通常,空気を圧縮すれば必ず 水分が発生するからです。 ちなみに,オイルレスタイプはピストンリング部に特殊な樹脂 などを使い,オイルによる潤滑を不要にしている訳だが,やは りこれも価格相応で,低価格の物は極端に?耐久性が劣る という話を聞いたことがある。しかし,これもまたサンメカレベ ルの使用頻度ではまったく問題が無いと思われる。 (画像にカーソルを当てると説明が出ます。) |
注:「サンメカ」とはサンデーメカニックの略で,週末に整備を楽しむアマチュアの整備愛好家?のことです。